[Day 82] 曹操の東征
三月 · 天下の二人 | 約三分の読み

車冑(しゃちゅう)の頸(くび)が、関羽(かんう)の青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)の下に、置かれ、劉備(りゅうび)のひと張の書(しょ)が、許都(きょと)に到達したる、明けたる日の朝、曹操(そうそう)が、東征(とうせい)の最初の旗を、上り掲(かか)げたり。
曹操の本陣の卓の上に、地図が、再び、広げられたり。荀彧(じゅんいく)が、低く、申したり。
「主公。今日のお東征は、速(すみや)かに、お動き給わねばならぬ。袁紹(えんしょう)の七十万の大軍が、黄河(こうが)の北より、南のほうへと、お歩み給い始めおり申せり。お東征が、速やかに、お終(お)え給われずば、袁紹の歩みが、南より、主公のお背(せ)を、お打ち給う事と、為(な)り申さん。」
郭嘉(かくか)が、低く、続けたり。
「主公。袁紹の結は、決定を、永(なが)く、お引(ひ)き延ばし給う結に、ござる。袁紹が、お動き給う前に、劉備を、お取り給わば、後の日の結が、ひと結、軽く成り申さん。」
曹操が、低く頭を、首肯したり。
曹操が、三十万の本軍を、お動き給いたり。夏侯惇(かこうとん)・夏侯淵(かこうえん)・曹仁(そうじん)・曹洪(そうこう)・李典(りてん)・楽進(がくしん)・于禁(うきん)・徐晃(じょこう)・張遼(ちょうりょう)の九将(きゅうしょう)が、共に、お東征に、お動き入り給いたり。天子(てんし)の詔書(しょうしょ)が、本軍の旗の上に、掛けられおったのである。
ひと方、徐州(じょしゅう)の劉備の幕屋の内側にては、陳登(ちんとう)が、低く、申したり。
「劉公(りゅうこう)。今日のお東征の報せを、お受け申し上げ申せり。曹操の三十万の大軍が、徐州のほうへと、お歩み給いおり申せり。お二万の歩軍(ほぐん)にては、堪当(かんとう)し難(がた)く、ござる。外援(がいえん)が、必要にござる。」

劉備が頭を、深く、首肯したり。
「その外援は、誰人(たれびと)の外援なるか。」
陳登が、低く、答えたり。
「冀州(きしゅう)の袁紹(えんしょう)に、ござる。袁紹の七十万の大軍が、黄河の北に、既(すで)に、立ちおり申す。使者(ししゃ)を、袁紹のほうへと、お遣(つか)わし給いて、外援を、お請(こ)い給え。」
劉備が頭を、首肯したり。孫乾(そんけん)が、使者として、ひと張の書を、懐(ふところ)の内側に、納め、冀州のほうへと、歩みを、お移し給いたり。書の最初の行に、かく、置かれおったのである。
「冀州の袁本初(えんほんしょ)公にあらせられん。劉備(りゅうび)が、徐州にて、曹操の三十万の大軍と、向かい合いて、立ちおり申す。外援を、お請い申し上げ申す。」
徐州の城楼(じょうろう)の上にて、関羽が、東南の地平線を、ひと結、見つめたり。曹操の三十万の大軍の塵(ちり)が、遠くより、ひと結に、上りゆきおったのである。関羽の両眼が、深く、沈み込みたり。
「兄上。今日の結が、大いなる結に、ござる。お二万の歩軍のみにては、お防ぎ給い難(がた)く、ござる。」
劉備が、低く、答えたり。
「雲長(うんちょう)。今日の結は、冀州の外援を、お待ち申し上ぐる結なり。孫乾が、冀州に到達する刻(とき)を、お稼(かせ)ぎ給わねばならぬ。」
Book 3 の八十二度目の朝が、曹操の東征の最初の旗の下にて、しずかに、開かれゆきおったのである。東征帆(とうせいはん、東征の帆)の三字が、地図の結と、三十万の大軍の歩みと、ひと張の書が、冀州のほうへと、移り行きたる結と、城楼の上の両眼とが、ひと席に、置かれたるひと息の種子として、植えつけられつつあったのである。Day 81 の 冑頸落(ちゅうけいらく)の頸が、今朝、曹操の東征の最初の旗の下に、置かれおったのである。
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“✒️ 平訳家の一言 — 延三欽博士(Yeon Sam-Heum, Ph.D.)
大いなる軍の最初の旗が、東の地平線の上に、上りゆく朝があり申す。その最初の旗の結が、小さき城の内側にて、外援を、お待ち給わしむる席にござる。今日、貴方の朝にも、大いなる旗の影が、貴方の小さき結の内側にて、外援を、お待ち給わしむる席が、もしや、置かれおりてはおらぬか。そのお待ちを、しずかに、覗き見られてはいかがであろう。
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